困難のない関係はない―Simon Baker interview

2019年のロンジンの独占インタビュー抄訳です。オリジナルはこちら

 サイモン・ベイカーは、ロンジンのアンバサダーを7年務める。魅力的なブロンドの巻き毛と笑顔、軽妙さを持ち、「メンタリスト」の主人公でおなじみの彼は、スイスの時計ブランド、ロンジンの品性を完璧に体現していると言えるだろう。バルセロナで開催されたロンジンFEIジャンピング・ネーションズカップ(障害馬術競技)決勝大会で、サイモン・ベイカーは、彼にとって困難のない関係はない、と打ち明けた。

文:アニャ・ファン・デル・ボルト


 バルセロナの地で、サイモン・ベイカーはしっかりとした握手と満面の笑みで私たちを歓迎してくれた。「こんな英語でごめんなさい」と断ると、「いや、僕の方こそ」と彼は返す。そんな雰囲気でインタビューはスタートした。


――朝一番にすることは?

 水を飲むよ。時々はレモンジュース。瞑想をすることもある。


――時が経つのは怖い?

 それは自分が年を取ることを、という意味?そうだね、若い頃だからできることもあるし。今になって「あの時もっとやっておけばよかった!」って思ったり。体力面では、年を取ると何かと大変になってくるから。ちょっとやりすぎたかな、って時に、今までにない箇所が痛くなったりね。まあ、まだそんなにひどくはないんだけど...。年を取ることというよりも、自分のやりたいことができるかどうか、かな。


どちらを選びますか?

――フェラーリ?ポルシェ?

 車はあまり好きじゃないんだ。

――トランクス派?ブリーフ派?

 夜の気分次第だけど、トランクスかな。

――金髪?ブルネット?

 うーん...

――スニーカー?革靴?

 それを履いて何をしたいかによる。 

――旅行に行くならアフリカのような冒険旅行?それとも街?

 両方選んでもいい?一方がもう一方をより魅力的にすると思わない?


――あなたの夢は何でしょう?将来、本当にやりたいことは?

 何をしたいかというよりも、それをしているときにどう感じるかが大切だと思ってる。素晴らしいことができても、何か不安があって楽しめないこともあるよね。自分自身後から振り返ってみて、やったこと自体はすごいんだけど、不安や緊張、ストレスで全然満喫できなかった、というようなことが。僕がしたいのは、自分が喜んで、本心からリラックスして取り組めること。だから、自分がすることについて哲学的なすじみちをすり合わせる必要がある。「これをやるべきじゃないか、あれをやるべきじゃないか」っていう罪悪感は置いておいて、やっていることを楽しむんだ。今この瞬間、瞬間を受け入れる。外からの圧力に負けずにね。


――ご自身で夢見ていた人生を送っているといえますか?

 いやいや、こうなるとは夢にも思っていなかったから……全く予想外の人生といっていいね。毎日、ほんとシュールな状況で生活してる。自分の将来に、こんな大きな夢は持ってなかったんだ。だからアドリブでこなして、その一瞬一瞬を楽しむようにしてるよ。

 どんな人間関係も、複雑に考えないのが僕のやり方なんだ。そうすることで心地よくいられるから。僕が君を見る、君が僕を見る、僕が話す、君が返す、コミュニケーションをとる……今だってこうして、正直なやり取りが過去へと未来へと続いていく。この関係はシンプルで人間らしいよね。僕が、いや僕ら全員、生まれつきそういうものを持っているから、自然と理解できるんだ。これが僕の仕事のやり方。いつでも、そこに立ち返るようにしてる。


――俳優になりたいと思ったのは、いつのことですか?

 演技の重要性を知ったのは、比較的早い時期だったと思う。僕は牧歌的な場所で育ったけど、家庭環境が素晴らしかったわけじゃないんだ。ただ、そういった中で気持ちを解き放つことや、何かしらの状況を乗り切るために演じることの重要性を理解できたのはよかった。これは無意識のうちに身につけたと思うんだけど、ティーンエイジの頃、映画を見て、母親との関係が改善したりした。

 最初から、映画を見るのは好きだったね。どんなものだったか、はっきりと覚えてる。物語を読む時と違って、映画では登場人物が何を考え、何を感じているのか、セリフや説明がなくても演技や態度から伝わってくる。映画を観ている時、自分なりにその登場人物とつながって、その行動を体験することができる。なんてパワフルなんだと思ったよ。映画館のスクリーンはテレビ画面よりも迫ってきて没入感があるから、映画を通じて登場人物と絆を感じられるのが好きだ。



――今はどんなプロジェクトに取り組んでいますか?

 オーストラリアで監督する予定の映画が2本あって、2つの異なるプロジェクトに取り組んでいる。あとデル・キャサリン・バートンというオーストラリアの有名な画家の長編映画にも出るつもりだ。彼女は既に何本か短編映画を制作しているんだけど、今回の作品は、レイプを目撃してしまった12歳の少女の話なんだ。すごく興味深く力強い物語で、僕は主人公の父親を演じる。かなり前衛的な映画になると思うよ。俳優としての次の仕事はそれなんだけど、今は監督業のための準備をあれこれしているところ。

 だけど、今はあまり仕事をしたくないんだ。下の子の学校があと1年あって、彼がまだ家にいるから。これから1年間、できるだけ父親としてそばにいることを約束した。アメリカからのオファーは多いんだけど、今は僕はオーストラリアに住んでいるし、潜在的にはヨーロッパ的な感性が強いと思うからそっちでも仕事をしたい。でも、アメリカで成功したからね...。


――もっとお子さんたちのそばにいてあげられれば、と後悔していますか?

 後悔というよりも、時間の流れのようなものだね。僕には3人の子供がいて、僕にも彼らにも時間は進む一方だ。あと1年で子どもたちは独立して、僕たちは空の巣に住むことになる。つまり?今、僕にはこれだけの時間しかないんだから、精一杯大切に過ごさないと。過ぎた時は元には戻らないし、状況は変わっていく。時間は有限なんだ。


――時間といえば、時間を守るのが好きとお聞きしました。

 その通り、きっちり時間を守るのが好きだ。もっと言えば5分前には用意を整えて、集中したり準備がしたい。


――その5分間でどういったことを?メールをチェックしたり、SNSを見たりするのでしょうか?

 ただ、準備できたかなって考えてることもある。場合によるよ。スマートフォンも便利だよね、いくつも済まさなきゃいけない用事があって、待ち時間の間にそれができて、すっきり終えられる時とか。今やるか、後にするか、妥協の連続だよ。だけどね、僕は言いたいんだけど、ただ何もしない時間を過ごすのも大事にしてるんだ。ほんの短い間でも、そうすることは本当に僕にとって大切なんだよ。

(中略)

――人生の使命は何だと思いますか?

 あまりひどいことにならずに乗り切ること……自分自身のためにもね 。人は自分で自分を傷つけてしまうこともあるから。


――お子さんたちにも、あなたと同じ道に進んでほしいと思いますか?

 彼らには自分自身の人生を歩んでほしい……決まり文句だけど、子どもたちには幸せになってもらいたいんだ。配管工になりたいなら、世界一幸せな配管工になってほしいし、詩人になりたいなら、世界一幸せな詩人に。たとえ貧しい詩人でも、世界一幸せな貧しい詩人にね。彼らには自分自身で幸せになってもらいたい、それが一番大切な人間関係だ、そうだろ?


――ご結婚されて長いですが、結婚生活を成功させる秘訣は何でしょう?

 冒険心を持つこと。一種の心構えみたいなものかな。冒険心を持つことで、困難と向き合えるから。

 どんな関係にも、さまざまな、ありとあらゆる困難がつきまとう。ああ、こりゃいい、楽勝だ、そんなところにたどり着けることはないんだ。だってそこに至ってもすぐほら、家の土台にシロアリがたかるみたいに、物事はまた崩れ始めちゃうから。だから、その瞬間を当たり前と思ってはいけないんだ。それと、子どもを持つことは僕らの人間関係をより深めたと思うよ。二人の焦点も注意も、子どもたちを育てるという一つの目標に向けられていく。秘訣なんてないんだ。自分がやりたいからやるんだと思う。

 僕と同世代の友人の多くは離婚してて、別れることで良くなる関係もある。でも、人間関係にはいつだって緊張があるから、自分が結婚に成功した男、みたいな基準にされるのはちょっとね。その種の緊張感があるからこそ、どんな人間関係も挑戦的で難しいものだし、誰もが他人の完璧な人にはなりえないんだ。相互理解と受容はかけがいのないものだけど、次の瞬間にはすっかり壊れてしまうかもしれない。人は一緒にいたいから一緒にいる。明日はどうなるか、見ていこうよ。

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